日本のみなさんへ

「日本を歯の先進国へ」

私は学術人として、常に、Act locally, Think globallyでありたいと考えています。どちらかの視点・立場も欠けてはならないと思っています。つまり、米国UCLAを拠点とした教育活動、学術活動、研究活動を続けていますが、その動機づけの出所は世界の至るところから発するものでなくてはならず、また、成果の発信や貢献は、世界中のすべてに届かなければなりません。世界の患者、ドクター、研究者、教育者、学生ために、実質的に役に立つことをめざしています。そして、Think globallyの中には、もちろん、私にとっての母国である日本も重要な場所として含まれ、日本の医療、学術・科学の発展に貢献していきたいと思っています。

おそらく国民の多くが意識するように、また海外でもそう報じられているように、日本は世界有数の、もしかしたらもっとも質の高い、こだわりをもった食文化を持つ国であります。味、食感、もりつけ、素材、食する雰囲気・環境、すべての要素で高い文化・習慣が確立されているように思えます。そして、その食文化と密接に関係するのが、歯と口の健康であることはいうまでもありません。歯が悪かったり、抜けていたりすると、思うように食べることができませんし、食べ物の種類によっては食べることを躊躇したりしなれければなりません。発音もしづらく、食事中の会話も弾みません。実際に、歯が悪いと、口腔QOLクロティティオブライフといって、口の役割に関する幸せ度が低下することが分かっています。しかし、残念なことに、日本人の歯や口に関する関心、こだわりは低いのです。通説によると先進国の中で、非常に低い位置にあるといわれています。私はこれらのことを残念に思い、何とか好転させられればと考えています。 いつになっても、何歳になっても、楽しく幸せな毎日の生活のために。そして世界に誇れる歯と口の健康と美しさのために。
  
なぜこのような低い歯の意識が、日本人特有のものとして存在するのでしょうか。基本的に、一般の人は歯に関して、歯科医師ほどの知識と情報を持ち合わせていません。これは当然のことです。だから、私は、先進国の中で、国民の歯に対する意識が低い原因は、私を含めて、大きな部分では歯科医療提供側、つまり、歯科医師側にあると思っています。国民に歯の大切さを啓蒙し、理解してもらう努力をさらに行う必要があると思うのです。もちろん、今もさまざまな組織や学会、また全国の個人開業医が、行っていることとは思いますが、まだまだやることは多いと思っているのです。 
  
患者さんが、歯科医院の門をたたいてから後の、ケアをするばかりでなく、歯磨きのチェック、子供であれば成長、そして、虫歯や歯周病の予防、そして、歯の美しさなど、国民の日ごろの生活と健康の維持・管理に、歯科医師がもっと関与していくべきだと思っています。私のいる米国では、生活は歯科医師がいないとなりたたないぐらい、緊密に頻繁にかかわっています。悪くなってからかかるのではなく、子供から大人まで、定期健診にいきますし、もちろん矯正も日本より盛んです。つまり、悪いときにのみに介入する「歯の医者」ではなく、「デンティスト」という歯のスペシャリストなのです。また、米国では、幼い頃から、ファミリーデンティストといって、かかりつけの歯科医師に定期的にかかります。その習慣は、親から子、子から孫に受け継がれ、幼少から、ご高齢にいたるまで、国民とデンティストは、パートーナー的な存在となります。すべてアメリカのシステムがいいとは思いませんが、日本のみなさんが、日本のすばらしい食文化、生活やステイタスにふさわしい歯と口の健康を、子供から大人、そしてご高齢の方にいたるまで保つことができればいいなと願うばかりです。